「自分の世代の山の価値観を押し付けるのではなく、次の世代が山で活動をする手伝いをしたい。」
桐生の山で育ち、木と共に生きてきた生形さん。
その思いは、地元の山を守ろうと森林コンサルタントとして世界で経験を積んできた武井さんに引き継がれます。
第二回目は、山と付き合うには、山のことをみんなで話し合うことの重要性についてお伺いしました。
森林コンサルタント 武井 沙織さんのプロフィール
青年海外協力隊で植林に携わり、帰国後に海外林業コンサルタンツ協会入社。
2021年、合同会社バリュー・フォレストを設立。前橋女子高―岩手大農学部卒。
森林所有者 生形(うぶかた) 昇さんのプロフィール
生形精機・代表、桐生・梅田町の森林組合員。
桐生の山の頼れる生き字引的な存在。
フクル木島さんのプロフィール
Silky Peopleの発起人であり、ブランドマネージャー。
桐生の縫製工場生まれ。
群馬県桐生市出身JYUNYA WATANABEチーフパタンナーに就任後、
イオントップバリュ㈱で衣料商品企画開発部のチーフクリエイティブデザイナーに就任。
2011年に個人事業主として起業。2014年、株式会社Huggyhuggy(ハギーハギー)設立。
2015年、株式会社フクルを設立。
環境にやさしい服作りについて日々模索中。
■空気を浄化にするために、木にも世代交代が必要。
生形さん:
木島さんや武井さんは、具体的に今後どうやって森と付き合っていけばいいとお考えなんですか?
木島さん:
私は森を管理するというところに重点を置いて行った方がいいとおもっているんですよね。
「カーボンニュートラル」に役立つ、つまりCO2の吸収に役立つ森林を管理していく必要があると思います。
※「カーボンニュートラル」とは...
→工業などによって出た温室効果ガスCO2などの排出を、全体として2050年までにゼロにするという宣言。2020年10月、菅元総理は所信表明演説において発表。
例えば、
・植林を進めることにより、光合成に使われる大気中のCO2の吸収量を増やす。
・CO2が出づらい施設を建てる。などが挙げられます。
武井さん:
そうですね。それをするためには山を健康に保つことが必要です。
山の健康を維持するには「間伐」する必要があります。
※間伐とは...
森林の成長に応じて樹木の一部を伐採し、過密となった林内密度を調整する作業です。 間伐を行うと、光が地表に届くようになり、下層植生の発達が促進され森林の持つ多面的機能が増進します。 間伐を行わず過密なままにすると、樹木はお互いの成長を阻害し、形質不良になります。
参照:農林水産省
木材を売るために木を切るだけではなく、「山の健康のために」というところが必要なんです。
最終的には間伐だけでなく、皆伐・主伐をして再造林、森林の更新までできればいいと思っているんですけどね。
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※皆伐とは...
森林を構成する材木の一定のまとまりを一度に全部伐採すること。※主伐とは...
更新または更新準備のために行う伐採、もしくは複数の樹冠層を有する森林における上層木の全面的な伐採。これまでは主に木材の利用を目的として全面的に伐採し、収穫するという意味で使われていた。
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生形さん:
そうだね。
ただ、地元の人間は皆伐はしようと思わないだろうからね。
インタビュアー酒井:
あれ?木を一旦全部切ってしまうと、CO2が吸収されなくなっちゃうんじゃないんですか?
武井さん:
それは逆で、樹齢の若い木の方がCO2の吸収量が多いのです。
高齢木を伐った後に、再び植林してあげることで、山の機能は健全に保たれるんですよね。
つまりCO2を吸収しやすい山づくりを今後は目指すことも重要になると思っているんですよね。
木島さん:
そういった山を作るためにはやはりきちんと管理をすることが大事で。
CO2の吸収率が高い山を作るためには管理者が必要なんです。
武井さん:
そういった山作りの準備には最低でも5年くらいは必要だと思うんです。
生形さん:
なるほど。
それなら確かに早めにやった方がいい。
できれば、私たちの世代からできたらいいんだろうなぁ。
ただなぁ、すんなり皆伐するってなるかというと、それが難しい。
やはり皆伐をすると土砂災害のリスクがたかくなるし、皆伐した後に木を植えても鹿がその苗木を食べちゃって森林にならない可能性もあるし。
木島さん:
環境問題の解決に取り組むための植林にも初期投資がかかるってところが引っかかると思うんです。
山の管理にしても所有者が出すのではなく、
他のところから資金を提供してもらえれば始めやすい。と思うんですよね。
このお金をどうやって作るかが、今後の大きな課題になってくると思うんです。
カーボンニュートラルの考え方を自治体や企業に対してどう売り込んでいくか。
このあたりを考えていかなければいけないと思うんですよね。
武井さん:
あとは山の現状をもっと知っておく必要もあると思うんですね。
さっき問題として出た苗木を食べてしまう鹿のことなんかもそうです。
山に住んでいる動物が生態系に影響を及ぼして植生がかわってしまったり、温暖化による植物や昆虫の変化なども重要だと思います。
生形さん:
あぁ、鉄砲撃ちも鹿の気持ちがわからないとダメって言うしなぁ。
■山との付き合い方を、話し合っていくことが必要。
生形さん:
あとは、山でも管理しやすい山としづらい山があるんだよなぁ。
比較的、平らな斜面であれば、木を切るのも楽だし、植林もしやすいんだよね。
でも、急斜面のところはなかなか手をつけづらい。
武井さん:
そうなんです。
山をどの範囲まで管理すべきか。というのも課題の一つなんですよ。
山全部を管理しようとすると、作業のための道を作るだけでも大変なコストになっちゃうので、
採算に合う森林と保全すべき森林を判別することも必要になっていると思うんですよね。
木島さん:
なるほど。始める前の計画も大事ってことなんですね。
武井さん:
それはゾーニングという考えで、地域の森林全体で考えないとならないことでなかなか進まないんですよね。
生形さん:
昔の人はなんとかして急斜面のところまで植林しちゃったみたいだけど、
いざ切るってなったら危なくてしょうがないんだ。
武井さん:
群馬でもこのあたりは昔から林業で生計を立てている人が多かったから、
今のこの山は、その表れでもあるとおもうんですけどね。
そういった昔からこの土地で林業をやっている方々や森林に関わっている人たちと、
これからの山との付き合い方を話し合っていくことが本当に必要になって来ているんですよね。
生形さん:
まぁ、武井さんの場合は、そのためにこの山に住み始めたからね。
我ら山の人間からしたら珍しいんですよ。それだけで有名人ですから。
(続きます。)