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自然の中にいると、目に見えないことも信じられる。|第一回【桐生】「野路」さん

車がなんとか入っていける細いデコボコ道の先に、

大きな山を背にあらわれるパン工房「野路」。

大きな白い犬が2匹と、ほんわかしたご夫婦が笑顔で出迎えてくれました。

いざ、お話を伺ってみると、パンの話というよりも「死生観」の話へ...。

しっかり「生きている」ことを噛み締めて暮らすことが、

野路のパンの隠し味になっているような...。

ぜひ、お二人のお話を味わっていただければと思います。

「野路」さんのプロフィール

桐生で「チャツネ」というパン屋を休止し、一年山小屋で働いた後、

ご夫婦二人でパン屋「野路」で活動を再開させる。

工房を始め、薪窯まで全てご自身で作るところから始める。

「日々はまるごとパンになる」という言葉を掲げ、

日々の暮らしを大事にしながら、夫婦でパンを焼いています。

野路

「散歩」と「縁」で今の工房に。

 


お二人が桐生にパン工房を構えたきっかけはなんだったんでしょうか?

野路 あやさん:
もともと夫婦で「家のすぐ裏に山があるところに住みたいね」って話していたんです。

野路 のぶさん:
僕らの出身地である群馬県の前橋市にも赤城山っていう山があったんですが、
住まいからは少しはなれていたんですよね。

友達が住んでいる桐生を訪れた時に、
同じ群馬なのに自然をより身近に感じることができたんです。
それで、いざ店舗を構える場所として候補になりました。

前(チャツネという名前で活動をされていた時期)の工房は、
桐生を散歩している時にたまたま雰囲気のある家を見つけて...
そのまま直接大家さんと交渉して入居させてもらったんですよ。

 


あぁ!そちらって「__ito__ 」の門井さんのアトリエになっているんですよね。
この前、インタビューでお伺いしました。

野路 のぶさん:
はい。僕らがもう少し広い工房を持ちたいと思っていた時に、
ちょうど門井さんたちも桐生に興味を持って訪れてくれたんですよね。

なので、入れ替わる形で住まわれてますね。


そうだったんですね。

確かに今の工房はパンを作るスペースも広くて、
裏に山があるという条件を満たしてますね。
この物件はどのように探し出せたんでしょうか。

 

野路 のぶさん:
ここも、犬の散歩していたら偶然小さな路地を見つけて。
そこを登っていったらこの場所に辿りついたって感じですね。

野路 あやさん:
たまたま散歩中に見つけるっていうパターンが多いんですよね。

何度かその場所を訪れた時に大家さんとすれ違ったので、
住めるかどうかを交渉したのですが、当初は断られたんです。

 

野路 のぶさん:
新しい場所もなかなか決まらなかったし、一度暮らしや働き方を見直したいという想いもあって、
お店を閉めて二人で山小屋に行くことにしました。


山小屋!?それはパン作りとは....

野路 のぶさん:
関係ないですね。
純粋に山小屋の仕事をするために行きました。


どれくらいの期間行ってらっしゃったんですか?

野路 のぶさん:
長野の八ヶ岳に一年くらいですかね。
山に入って気持ちをフラットにしたくて。

野路 あやさん:
ただ、山小屋で働いている時も、頭の片隅で
工房の候補になりそうな場所を探してはいたんですよね。

野路 のぶさん:
そう、そんな感じで過ごしていたら、
桐生で断食道場をやっている「あめつち舎」の藤野さんから連絡があって、

僕らが一度交渉して断られた大家さんとの仲を取り持ってくれて、
この場所に引っ越せることになったんです。


はあぁ...!本当に縁ですねぇ。

 

山でのシンプルな生活が、自分をリセットしてくれる。


そういえば、のぶさんが一度、山で大怪我した経験があるとか?

野路 のぶさん:
そうですね笑

野路 あやさん:
ねぇ...苦笑
あれは、北インドのラダックというところで
山登りしている時だったね。

野路 のぶさん:
山に入って数日経った後のことでしたね。
その日も「さぁ、いこうか!」と歩き始めた時に、
音らしい音もなく、いきなり足に激痛がはしって。

苦しくてわけがわからないまま倒れ込んじゃったんですよ。

野路 あやさん:
その時、私は前を歩いていて、何か音がしたのに気付いたんですね。
で、パッと振り向いたら、のぶがいなかったんですよ。

ちょうど崖っぽいところを歩いていたので...
....落ちた?!

と思ったんですが、よく見たら痛そうにうずくまっていて。

野路 のぶさん:
音もなく落ちてきたこだまスイカくらいの落石が、
僕の足に当たって。今、考えると足で本当に良かったと思います。

もし頭に当たっていたら命がなかったかもしれませんから。
本当に運が良いというか....

野路 あやさん:
のぶは歩ける状態じゃなかったので、
次の村までなんとか行って、どうやって下山しようか考えました。

村までの道は険しくて、救助の車を呼べるようなところじゃなかったんです。
それで、地元のホースマンという馬で荷物を運んでいる方に
下山を手伝ってくれるように頼んだんですよ。

最初は「一日待っていてくれたら大丈夫だ。」と返事をもらっていたんですが、
その後、「どうしても乗せられなくなった」と言われてしまって...。


えぇ...それはまずい...

 

野路 あやさん:
どどうしようと思っていたら、泊めてもらっていた家のお母さんが飼っている家畜のドンキーを貸してくれたんです。

のぶがまたがったら、足がついちゃうくらい小さかったのですが。

 

野路 のぶさん:
他の登山客から物珍しい視線を浴びながら、やっと降りれましたね。

 

野路 あやさん:
あの子がいたから帰ってこれたんだよね。

 

野路 のぶさん:
ドンキーとお母さんの優しさに本当に救われました。

 


はぁあ...
山でそれだけ怖い思いをして、
その後、また八ヶ岳の山小屋に行っているんですね。

先ほど、山に行くのは息抜きだという風におっしゃっていましたが、
そんなことがあってもやはり山は魅力的ということですか?

 

野路 あやさん:
そうですね。
やっぱり山はリセットできる場所なので。

「山に登る」って行為ってすごく身体を使うんです。
登ることに全集中できるんですよ。

頭を空っぽにしてただただ登る。という感じで。

野路 のぶさん:
そうそう。
歩いて、ご飯を食べて、寝る。
だけなんです。

野路 あやさん:
山では、すごいシンプルに毎日を過ごすんですよ。

野路 のぶさん:
ネパールやインドで山に入っていた時は、
ロングトレッキングといって
一週間から二週間以上のコースもあって。
ずっと山に入って山小屋を転々としていく毎日なんですね。

その間、先ほどのシンプルな生活を続けていると、
感覚がどんどん冴えてくるんですね。

野路 あやさん:
...覚醒してくるというか。

頭の中にあった課題が
「あ!そうだったんだ!」
みたいに急に解けたりするんですよね。

野路 のぶさん:
余計な情報が一切入ってこないので、
頭が本当にクリアになってくるんです。

野路 あやさん:
ハイな状態になるというか。
とても気持ち良いんです。


今、ちょっと流行っているサウナでいうところの
「ととのう」状態に近そうですね。

野路 のぶさん:
あぁ、本当にそんな感じです。

山で痛い目にあったとはいえ、
それも山の特徴だと思うんですよ。

美しいだけではなくて、危険な部分もある。
全部含めての自然だということです。

山に入ると「死」を意識しやすくなるんですよ。

僕が経験したような歩けなくなるような怪我を負ったりして、
もし一人だったら全く動けなかったと思います。

危険と隣り合わせの山の中では何が起こるか分からないんですね。

そういう「死」を感じやすい場所に行くと、
余計に「生きてる」ということを強く感じられるというか。

それを感じたくて行っているところはありますね。
怖いんだけど、やっぱり行きたい。
味わいたいんですよね。

 

野路 あやさん:
深い自然の中に入ると、目に見えないことも感じられるというか、
信じられるようになるんですよね。

自然の中にいる自分が自然に溶け込んで一部になる感覚。
だから、怖いっていうよりも、うまく言葉にはできないのですが、守られてるという感じですかね。

そしてこの不思議な感覚はパンにも少し通ずる気がします。

パンも元をたどると目には見えない「菌」がつくっているものですから。

(続きます。)

  • この記事を書いた人

酒井 公太

silkypeopleのウェブ担当であり、プランナー。 フリーランスで町おこしや企業のプランニングをなりわいとしています。 天真爛漫な幼い娘の髪を撫でている瞬間が一番の幸せ。ただ、その娘に「おとうさんは、おとなげない。」と言われていろいろと複雑な気持ちになりました。

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