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「次の世代が山で活動しやすくするための手伝いを」【桐生】森林コンサルタント 武井さん・森林所有者 生形さんインタビュー 第一回

「今から会いにいく武井さんは桐生の山で仙人のように暮らしているような女性です。」
桐生で森林コンサルタントをされている武井沙織さんの元に車で向かっている車内で、
開口一番、そう伝えられた私はびっくり!

武井さんは生まれ育った地元桐生の山を守るため、桐生の山中に移住し、
地元の林業の方々と、山を育て、守るための活動を続けていらっしゃいます。

その山は古くからの山岳信仰が残る・根本山の麓、桐生の梅田町。
気づけば車は、民家がほぼない落石がちらほらありそうな山道に突っ込んでいくし、
明らかにもののけ姫が住んでいそうな場所になってきた...。

「こんな山奥に住んでいる人って...どんな人?」
と若干ひるみぎみでしたが、迎えてくれたのはやわらか〜い雰囲気の方々でした。

第一回目は、山を次の世代に繋ぐために必要な考え方についてお伺いしました。

 

森林コンサルタント 武井 沙織さんのプロフィール

青年海外協力隊で植林に携わり、帰国後に海外林業コンサルタンツ協会入社。

2021年、合同会社バリュー・フォレストを設立。前橋女子高―岩手大農学部卒。

→森と水と記憶

森林所有者 生形(うぶかた) 昇さんのプロフィール

生形精機・代表、桐生・梅田町の森林組合員。

森林組合員で桐生の山の頼れる生き字引的な存在。

フクル木島さんのプロフィール

Silky Peopleの発起人であり、ブランドマネージャー。

桐生の縫製工場生まれ。

群馬県桐生市出身JYUNYA WATANABEチーフパタンナーに就任後、
イオントップバリュ㈱で衣料商品企画開発部のチーフクリエイティブデザイナーに就任。
2011年に個人事業主として起業。2014年、株式会社Huggyhuggy(ハギーハギー)設立。
2015年、株式会社フクルを設立。

環境にやさしい服作りについて日々模索中。

→フクルについて詳しく知りたい方はこちら。

 

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■自分の世代の思い出を残すのではなく、次の世代が山と接する手伝いをするべきではないか。

左から生形さん、武井さん、木島さん

 

木島さん・インタビュアー酒井:
本日はよろしくお願いします。

武井さん・生形さん:
よろしくお願いします。

木島さん:
今日ここにくる途中の車内で我々が話していたのが「山の風景がなつかしい」って話だったんですよ。

私も酒井さんも幼少期は山で育ったタイプだったので、子供の時は山にある沢などで魚を追いかけていたものです。
そういう楽しい風景を自分の子供達にも残したいねって話をしていたんですよ。

生形さん:
...それって、世の中のみんなが本当にそう考えているんでしょうか?

木島さん:
と、いいますと?

生形さん:
私はそういう「山の昔の良き思い出を残したい」
という考え方から、これからは脱却せざるをえないと思っているんです。
それというのも、今は昔に比べてしまうと規制が増えすぎたんですよ。

支流の沢の魚を獲るにも入漁券が必要になりましたし、世の中の子供を守るための考え方もずいぶんと変わってしまった。

 

木島さん

木島さん:
確かに子育ての考え方は今と昔で大きく変わりましたよね。
私が子供の時に比べると、親が子供に対して干渉することが多くなってきたというか...。

私が自分が子供の時に感じた自然の良いところを伝えたいと思っていても、そうさせてもらえないような風潮がありますよね。

 

生形さん

生形さん:
実は我々も今までそう考えて、自分たち世代の山の思い出を伝えようとしてきたんです。

ただ、私たちのような山で育った世代の考え方を、
街で育ってきた若い世代に伝えようと思っても無理がある。

もはや山の良さを伝えるのが無理なのだったら、
若い世代が山と接する手伝いをするくらいがいいのかなと思っているんです。

我々の世代の考え方を押し付けてはダメなんじゃないかとね。

木島さん:
あぁ...そうか。

生形さん:
子育てだけに限らず、山そのものとの付き合い方もそうです。
私たちは日本の林業が非常に景気の良い時に育ってきた世代です。
「山は儲かる」と思っていた世代なんですよ。

今でも自分の山から材を出せるなら、林業で家族が食べていけると言えるでしょう。

ただ、それだと武井さんのような一見、すぐにお金にならないような環境問題に取り組んでいる若い世代の人が、動きづらい部分もあるんですね。

これから私たちは価値観の違う世代間の考え方を擦り合わせていく手伝いをした方がいいんじゃないか。
と、思うわけです。

 

■古い考えをリセットしてでも、山に活気を取り戻す。

高度経済成長期前の梅田町。この後、植林がどんどんと進み、畑も杉林に変わる。

 

生形さん:
今までやってきた林業の仕組みをそのまま残そうとしても、もうそれは私たちの世代の考え方だからもう古いんですよね。

だから一旦それをリセットしてでも、次の世代が山で活動しやすい方向に変えて行かないとダメなんですよ。

木島さん:
それで言うと、実は桐生市にも国の行政から「カーボンニュートラル」の目標数値の課題が出されているらしいんです。

それができないと実は交付金を減らされるみたいなこともあるみたいです。

 

※「カーボンニュートラル」とは...
→工業などによって出た温室効果ガスCO2などの排出を、全体として2050年までにゼロにするという宣言。2020年10月、菅元総理は所信表明演説において発表。
例えば、
・植林を進めることにより、光合成に使われる大気中のCO2の吸収量を増やす。
・CO2が出づらい施設を建てる。

などが挙げられます。

だから、
市役所を建て替えたりするのも、あれはカーボンニュートラルのためだったりするんですよね。
再生可能エネルギーを作るためにソーラーパネルをつけたり、エネルギーがかからない断熱機能をつけたり。

ただ、桐生市全体としては今はまだまだCO2の排出量が吸収量を完全に上回っている状態らしいんですよ。

そうなってくると、結果的に市の面積の3分の2である森林に、CO2の吸収について頼るしかないと言うことなんですが...。

この「カーボンニュートラル」という考え方そのものが、まだまだ全然広がっていないんですよね。
一般の方でこの話題を知っている人って、今はほとんどいないんです。

ただ、今後は山の方に意識を向けざるを得ないような、行政の動きがあるはずです。

生形さん:
そうなんですよ。
実際にそういった先延ばしにされがちな問題に取り組んでいる人って本当に少ないんです。

そのような時に武井さんのような人が梅田に来たんですよね。

左・生形さん 右・武井さん

武井さん:
今お二人のお話にあった通り、本当にこの問題って社会に浸透させるには非常に難しい問題なんですよ。

だって「カーボンニュートラル」って横文字をいきなりぶつけられても、大体の方は混乱して「はわわ!?」って発狂しちゃいますよね...苦笑

そういった一見ムズカシイ事を、まずは興味のある方と一緒にやってみようと地元の森で日々いろいろやらせてもらっている感じですね。

とは言っても、山については私なんてまだまだで。

山で罠にかかった鹿のことを「なんだかかわいそう...」とおもっちゃうくらいですから苦笑

(続きます。)

  • この記事を書いた人

酒井 公太

silkypeopleのウェブ担当であり、プランナー。 フリーランスでデザインや企業のプランニングをなりわいとしています。 田舎育ちの東京暮らし。只今、移住を真剣に検討中です。

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