「森を守る」とテレビなどで流されていたとしても、結局は何もかわらない。むしろ怖い。
森林コンサルタントの武井さんはあくまで現場にこだわる。
言葉だけでは状況は変わらないのを知っているからです。
自然・森の立場、人間の立場。
双方を理解した上で具体的に両方をどう生かしていくか。
環境の変化とは、対象に対しての深い理解から生まれるのではないでしょうか。
武井さんの考える森の守り方。ぜひ一読していただければと思います。
森林コンサルタント 武井 沙織さんのプロフィール
青年海外協力隊で植林に携わり、帰国後に海外林業コンサルタンツ協会入社。
2021年、合同会社バリュー・フォレストを設立。前橋女子高―岩手大農学部卒。
フクル木島さんのプロフィール
Silky Peopleの発起人であり、ブランドマネージャー。
桐生の縫製工場生まれ。
群馬県桐生市出身JYUNYA WATANABEチーフパタンナーに就任後、
イオントップバリュ㈱で衣料商品企画開発部のチーフクリエイティブデザイナーに就任。
2011年に個人事業主として起業。2014年、株式会社Huggyhuggy(ハギーハギー)設立。
2015年、株式会社フクルを設立。
環境にやさしい服作りについて日々模索中。
治水ダムの寿命を伸ばすのも、良い森林があってこそ。
インタビュアー酒井:
この山の下の方には桐生川ダムがありますね。
あのダムにこの山から水が流れこんでいっているとおもうのですが、山の状態とも密接な関係がありそうですよね。
武井さん:
はい。山や森の管理は、ダムの寿命を伸ばすという役割もあると思います。
実は山の中には砂防ダムという小さいダムがたくさんあるんです。
これは桐生川ダムのような治水ダムと違って、沢の水にのって流れてくる砂を止めるためのダムなんです。
砂防ダムの役割の一つが、治水ダムの底に「砂」が溜まらないようにすることなんです。
実は治水ダムの底に砂が溜まれば溜まるほど、水を貯める容量が減ってしまいますからね。
ダムの機能を持続させる為には砂がなるべく治水ダムに溜まらないようにしないといけない。
ダム事業って本当に大きな金額がかかるものですから、簡単に造りなおせるものでもないですからね。
そのためにも、山を管理していかないといけないんですよね。
山と人間がバランスを取る方法を、私は山に住み、周りの人の話を聞きながら一緒に模索していきたい。
インタビュアー酒井:
それにしても、武井さんにお伺いしたような山や森の問題って世間的には知られていないことが多いと思います。
この状況ってなぜ生まれてしまったのでしょう。
武井さん:
テレビなどのマスメディアでの環境問題の伝え方が極論すぎると思うんです。
「山を守る。自然を守る。」
みたいな大きな言葉では、解決しない問題なんですよね。
むしろ、その伝え方は怖いと思っていて。
それぞれの山にそれぞれの問題があるので、丁寧に見ていく必要があるわけです。
何を守るのが大事なのかは、山によって違いますからね。
天然林のように放っておいた方がいい場合もありますし、
桐生の山のように維持をする努力が必要なところもあります。
インタビュアー酒井:
山を守る視点ってそもそも人間の方が山よりも上の目線で語る言葉だと思うんですよ。
そうじゃなくて共生を考えた方が良い気がしますね。
「山から一部人間が貸してもらう」くらいのスタンスの方が。
フクル木島さん:
人間がもっと山に興味を持つことが大事なのかもしれませんね。
自然から、お裾分けを頂いているという感謝のような感情を持った方が良いのかも。
武井さん:
今、木島さんがおっしゃっていた「山への感謝の感情の行き先」をつくるのも大事だと思うんです。
山の保全活動をするにもやはりお金はかかりますから。
例えば、山に感謝を表明してくれる人たちから「ふるさと納税」でお金を集めるとか。
山で採れたものを、商品として販売していくとか。
そうすることで我々の活動もしやすくなるんですよね。
山を良くしていくための資源の循環ができていく。
インタビュアー酒井:
それこそ、昔はその役割を「山岳信仰」などが請け負っていた気がするんですよ。
山に対しての感謝をお祭りのような形で寄付してもらうようなこともあったんじゃないですかね。
武井さん:
今は、お祭りというと経済を回すために行う場合が多いように感じます。
人間が人間の為にやるお祭りですよね。
昔は自然に対する畏怖のような感情から出てきたお祭りの意味が強かったのではないかと思うのですが、それが今は希薄になってきている感じがします。
昔の人たちは、本当に山に感謝する機会が多かったと思うんです。
例えば、山に生えていたキノコを「採らせていただく」という価値観で暮らしていたと思うんです。
その山と人間との共生のバランスが見えなくなっている。
そのバランスを見つけていくことを、私は山に住み、地域の人や山に関わっている人の話を聞きながら一緒に模索していきたいんですよね。
(終わります。)